イソトレチノイン治療を検討しているけれど、「治療を辞めたら、また皮脂が増えてニキビが再発するのではないか」と、治療後の状態に不安を感じている方もいるかもしれません。

イソトレチノインは正しい方法で治療を完了すれば、ニキビの「寛解(かんかい)」状態、つまりニキビが気にならない状態を長期的に維持することが期待できる治療法です。

この記事では、イソトレチノインは皮脂分泌をどう抑えるか、辞めた後も皮脂を抑制するにはどうしたらよいかなどについて、詳しく解説します。

 

谷口 隆志(たにぐち たかし)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医

2007年に東京大学を卒業後、東京大学医学部附属病院を中心に総合病院やクリニックで一般皮膚科、小児皮膚科、皮膚外科手術、アレルギー、美容皮膚科領域の診療を行ってきました。その経験・知識を活かし、幅広い医療機器を備えて、様々な皮膚のトラブルの助けになれるよう取り組んで参ります。

イソトレチノインを辞めた後の皮脂はどうなる?

イソトレチノインの服用を止めると、皮脂の分泌量は多少回復しますが、多くの場合、治療前と全く同じ状態に戻るわけではありません。

適切に治療すると、皮脂がある程度抑制された状態が続き、ニキビができにくい肌質を維持することが可能です。

イソトレチノインは皮脂分泌をどう抑える?

イソトレチノインには、皮脂を分泌する「皮脂腺」そのものを縮小させる働きがあります。

ニキビの大きな原因である皮脂の分泌を根本から抑制するため、重症ニキビに対しても高い効果が期待できる治療法です。

辞めた後に皮脂は増える?

イソトレチノインを辞めると、薬の効果で小さくなっていた皮脂腺が、少しずつ本来の大きさに戻ろうとします。

それに伴い、皮脂の分泌量も多少回復する傾向にあります。これが「治療後に皮脂が増えた」と感じる理由です。

皮脂の抑制は治療後も続く

イソトレチノインは皮脂腺の細胞自体に作用するため、服用を終了しても皮脂腺が完全に元の大きさに戻るわけではありません。

そのため効果の持続性が高く、治療終了後も皮脂が抑制された状態が続きやすいのが大きな特徴です。

特に、後述する適切な治療期間と服用量(積算量)を守ることで、ニキビが再発しにくい「寛解(かんかい)」という状態を、長期的に維持できる可能性が高まります。

辞めた後も皮脂を抑制するために

イソトレチノインを辞めた後も皮脂を抑制するための注意点を解説します。

途中で治療を辞めない

治療中にニキビが劇的に改善すると、「もう治った」と感じて自己判断で服用を中断したくなるかもしれません。

しかし、これは再発の大きな原因となります。必ず医師が指示した期間、処方された量を飲み続けることが、治療効果を最大限に引き出し寛解状態を維持するために重要です。

積算量について

イソトレチノイン治療において重要なのが「積算量」という考え方です。

積算量とは、治療期間全体で服用する薬剤の総量を指します。イソトレチノインは「体重1kgあたり120mg~150mg」の積算量を達成すると、ニキビの再発率を大幅に低下させると言われています。

 

例えば、体重50kgの方の場合は、以下のとおりです。

【体重50kgの方の目標積算量】

項目

計算式

体重50kgの方の目標積算量

50kg × 120mg = 6,000mg

1日20mgイソトレチノインを服用した場合、目標達成にかかる期間

6,000mg ÷ 20mg/日= 300日

1日20mgのイソトレチノインを服用する場合、目標達成までにかかる期間は、約10か月になります(1)。

目標積算量を理解することで、治療へのモチベーションを維持しやすくなります。診察の際に、目標積算量や治療期間の目安について、医師にご確認ください。

辞めた後に皮脂が増えた場合の対処法

イソトレチノインの治療後に皮脂の増加やニキビの再発が見られた場合は、自己判断で市販薬などを試す前に、まずは治療を受けた医師に相談してください。

軽度な再発であれば、外用薬(塗り薬)などで十分に対応できることがほとんどです。

また、皮脂が増えたと感じても、日々のスキンケアとしての保湿を怠らないようにしましょう。肌の乾燥はかえって皮脂の過剰分泌を招くことがあります。

イソトレチノインの効果

イソトレチノインには、以下のような効果があります。

抗炎症作用

免疫機能を調整してアクネ菌などに対する過剰反応を抑え、肌状態の悪化を防ぎます。この抗炎症作用により、酒さのような肌の赤みにも効果があります。

皮脂の分泌を減らす

イソトレチノインの最も特徴的な効果が、皮脂分泌の抑制です。皮脂腺の働きを正常化させながら、皮脂腺自体を小さくする作用があります。

皮脂の分泌量が実際に減少することで、ニキビの直接的な原因である毛穴の詰まりが起こりにくくなり、ニキビの発生を根本から防ぎます。

皮膚細胞の働きを整える

毛穴の出口の皮膚細胞が異常に厚くなる「角化異常(かくかいじょう)」によって毛穴が塞がれることもニキビができる原因の一つです。

イソトレチノインには、この皮膚細胞の角化を正常化させる働きがあります。肌のターンオーバーを整え、毛穴が詰まりにくい状態にすることで、ニキビができにくい健やかな肌質に導きます。

イソトレチノイン治療がおすすめな方

イソトレチノイン治療は、妊娠中の方・授乳中の方・12歳未満の方・肝疾患ではない方で、かつ次のような症状をお持ちの方におすすめです。

  • ニキビが繰り返しでき、悩んでいる方
  • ニキビ跡ができやすい方
  • 他の医薬品でニキビが治らなかった方
  • 重症なニキビや酒さ(赤ら顔)で困っている方

当院の特徴

当院では、イソトレチノイン治療を始める前に、必ず医師による丁寧な診察とカウンセリングをいたします。

一人ひとりの肌質やニキビの症状、ライフスタイルを詳細に把握し、治療のメリット・デメリット、副作用についてもしっかりとご説明いたします。

不安やご希望のある方は、その時に医師にお伝えください。ご希望を尊重しながら、医学的根拠に基づき、最も適した治療方法を提案いたします。

費用

イソトレチノインは、日本では未承認薬なので、保険適用外で全額自己負担の自由診療になります。

1か月分の費用は、16,280円(税込)(イソトレチノイン20mg×30カプセル)です。

よくある質問

イソトレチノインは皮脂腺を無くしますか?

イソトレチノインは皮脂腺を消退させ、小さくするお薬です。

この作用は顔だけでなく全身の皮脂腺に起こるため、副作用として皮膚の乾燥が生じやすくなります。

特に唇のひび割れや皮むけ、ドライアイ、鼻の粘膜の乾燥による鼻血などが起こることがありますので、治療中は十分な保湿ケアが必要です。

皮脂腺は元に戻りますか?

完全に元どおりになるわけではありませんが、ある程度は回復する可能性があります。

1982年のアメリカの報告では、治療中止後、皮脂の分泌量は2か月以内に治療前のレベル近くまで回復する傾向にあったとされています(2)。

イソトレチノインでのニキビ治療を検討中の方は、川崎たにぐち皮膚科へ

イソトレチノインは重症ニキビに対して高い効果が期待できる一方、副作用のリスク管理や「積算量」に基づいた専門的な治療計画が不可欠な薬剤です。

自己判断で使うのは危険なので、必ず皮膚科専門医のもとで治療を受けてください。

 

当院では、豊富な治療経験を持つ医師が、安全かつ効果的な治療を提供しています。長年ニキビに悩んでいる方は、ぜひ一度当院医師にご相談ください。

(川崎たにぐち皮膚科院長 :谷口 隆志 監修)

 

副作用・リスク

禁忌

  • 妊娠中または妊娠の可能性がある方
  • 授乳中の方
  • 成分にアレルギーがある方
  • テトラサイクリン系の抗生物質を服用中の方
  • 未成年者の方
  • 肝機能障害のある方
  • 腎機能障害のある方
  • 脂質異常症のある方
  • ビタミンA過剰症のある方
  • 重度のうつ病のある方

副作用

唇の荒れ、ドライアイ、鼻血、手足の乾燥、肝機能低下、膵炎、脂質異常症、催奇形性、流産、早産、死産、ニキビの一時的な悪化、脱毛、かゆみ、発疹、赤み、日焼け、筋肉痛、関節痛、背中の痛み、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐、結膜炎、眼瞼炎、目のかすみ、視力低下、アナフィラキシーショック、スティーブンス・ジョンソン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、うつ、幻覚、幻聴、自殺企図など

注意事項

  • 服用期間中と服用の前後1か月は、必ず避妊をしてください。
  • 服用期間中と服用後1か月は献血をしないでください。
  • 治療開始後は数週間でニキビの症状が一時的に悪化するかもしれませんが、治療を継続するうちに治まります。自己判断で服用を中止せずに、必ず医師の指示に従ってください。
  • 女性の場合は、定期的な月経を開始して2~3日過ぎてから服用を開始しましょう。
  • 乾燥が気になるときは、保湿剤や点眼薬などを使って保湿ケアしてください。
  • 服用中は紫外線の影響を受けやすくなるため、紫外線に注意してUVクリームを塗布するなどの対策をしましょう。

「イソトレチノインについて」

・未承認医薬品等
イソトレチノインは、医薬品医療機器等法上において国内で承認されていません。

・入手経路等
Cipla社から個人輸入しています。

・国内の承認機器の有無
国内で同程度の効能・効果で承認されている国内承認医薬品薬剤はありません。

・諸外国における安全性等に係る情報
米国のFDA(食品医薬品局)など諸外国で承認されています。胎児の催奇形性、鬱、精神病などの精神疾患の副作用も報告されています。

・医薬品副作用被害救済制度について
万が一重篤な副作用が出た場合は、国の医薬品副作用被害救済制度の対象外となります。

参照文献

1, Systematic review of low-dose isotretinoin for treatment of acne vulgaris: Focus on indication, dosage, regimen, efficacy, safety, satisfaction, and follow up, based on clinical studies

2,Effect of 13-cis-retinoic acid on sebum production and Propionibacterium acnes in severe nodulocystic acne.